そして雨になる

ネット上でだけよく吠える、コミュ障のブログ。

「カネ」の呪縛

 独身時代、当たり前に貯め続けていたことの反動だろうか。今の私は、「カネ」に異常なほど怯えて過ごしている。何故ここまでと思える程、不安が募ってたまらない。しかし、私の「カネ」への臆病っぷりは、今に始まったことではなかった。恐らくは、端っからこんな性格だったのかもしれない。
 
 思い返せば数年前、まだ妻が恋人だった頃だ。確か、SNSで翌日の旅行のことを話していたときだ。私はその話の途中で、「ホテル代は出せない」などと言った記憶がある。今考えれば、絶対に言うべき事ではない。当時の私にはそれが分からなかったのだろう。当時の妻は、当然気を悪くした。旅行気分に水を差すようなことをしてしまった。
 
 「カネ」の話が嫌いな妻に、わざわざその話題を振って機嫌を損ねさせた経験は、これだけではない。結婚してからも、私はそれまでと変わることはなかった。貯金が出来ないとか、今月の出費がどうたらとか、しつこいほどに言ってきたのではないかと思う。こんな話をする度に、妻は物凄く嫌そうな顔をした。そんな時いつも、お互いの口数が減る。いたたまれなくなって私が謝る。「カネ」の話はあまりしないようにする、と伝える。それからしばらくして、元の関係に戻る。しかし、時が経つと、私はその約束を忘れ、また妻に「カネ」の話をしてしまう。そして、また機嫌を悪くさせ……こんな事を、私は何度繰り返してきたのか。
 
 そう、何度も繰り返している。それは揺るぎない事実である。つまり毎回言っている「カネの話はしない」宣言が、結果的にただの口先だけの戯れ言であり、何の意味も持っていない。全く反省せず、何度も同じ過ちを繰り返す。酒・たばこ・ギャンブル依存症とまるで変わらないではないか。それでも、妻はいつも元の様子に戻ってくれる。このやさしさに、大いに感謝しなければならない。これが私の親の世代だったら、そろそろ一発殴られているかもしれない。
 
 少し逸れたが、未だに「妻にカネの話をする」という悪行を断てぬまま、つい先日、またやった。「今月(1月)、赤字だった」と言ってしまった。私がそう言うと、妻は何も躊躇うことなく、自分用の生活費を、ポンと渡してくれた。そればかりか、「働く日を増やす」「夕飯は私が何とかするから、あなたはまっすぐ帰ってこい」とまで言ってもらってしまった。しかも「何とかする」は、作ることだけでなく、その為の出費のことも含まれていた。私は圧倒されて何も言うことが出来なかった。肯定とも否定ともとれない情けない相槌を打つだけだった。私の「赤字」の一言で、妻には急に2つの大きな負担増を決心させてしまった。
 
 もう何を言っても言い訳なのだが、私は何も妻に食費を要求するつもりはなかった。グチグチ言うが、今まで通り、すべて自分で出すつもりだった。私の臆病な性格ゆえに、不安を聞いてもらいたい、と甘ったれて「カネ」の話をしてしまったが故に、全く予想しなかった大事に発展してしまった。何度も何度も同じ様なことを聞かされて、腹が立ったのかもしれない。
 
 このように私はとんでもない臆病者だ。生きている間ずっと「カネ」に怯えている。不必要に妻まで巻き込む。しかし、だ。忘れてはならないことがある。貯金はちゃんとあるのだ。ゼロでもないし、マイナスでもない。確かに「ある」。にも拘わらず、グズグズとしつこく妻に不安を垂れ、その都度機嫌を損ねさせ、後悔もしてきた。それなのに、私はまた過った。いったい何度同じ事をすれば気が済むのか。あれは、妻なりの「いい加減にしろ」というメッセージだったのかもしれない。
 
 今は本当に申し訳ない思いしかない。私の我が儘のせいで、いきなり妻に負担を乗せたから。だが、どうだろうか。今、自分のことがまるで信じられない。今までのままだと、「もうしない」なんて言ったって、きっとまたやらかす。妻には、大きな感謝と、申し訳ないという思いが募る。私自身には、情けなさと不信感、諦め…そんなマイナス感情がどんどん溜まってゆく。
 
 今回の一件で、私は私に対する自信を失いかけている。